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すずかけの木



初夏の街路を歩いていると、

すずかけの木の幹に目がいく。


青々と茂った葉が日差しを遮ってくれるのはありがたいが、


それよりも、あのまだら模様が気になって、

つい足を止めてしまう。




古い樹皮が大きく剥がれて、

その下から青白い肌が現れている。


使い込んだ漆器の表面が擦れて、


下地の色がのぞいているのに少し似ている。


乾いた茶褐色と、

むき出しの白い地肌とが入り混じって、


一本の幹の上に時間の層が重なって見える。



あの模様は、もちろん木が好きで描いているわけではない。


幹が太くなるにつれて、


外側の古い皮が木の成長についていけなくなり、


自然に剥がれ落ちる。ただそれだけのことだ。



古くなったものを抱えていられないから、手放す。


木にしてみれば、成長に伴う当たり前の生理現象にすぎない。


けれど、この「ただ手放す」ということが、


人間にはなかなか難しい。


自分を守っている殻や、

慣れ親しんだ習慣を脱ぐのは心細い。


だから私たちは、もう合わなくなった古い皮を、


いつまでも後生大事に貼り付けておこうとする。




禅に「放下著(ほうげじゃく)」という言葉がある。


——捨ててしまえ、と。


地位も知識も、よりどころにしている一切を手放せ、


という苛烈な一喝である。




頭ではわかっていても、いざとなると指が強張って離せない。

それが人間の常だろう。


すずかけの木には、そんな未練がない。

いらなくなったものは惜しげもなく落とし、

新しい肌をさらしている。




説法するでもなく、力むでもなく、ただ太くなるために古い皮を脱ぐ。


放下著を体現しながら、

本人はそんな言葉を知りもしない。



私たちはつい、自分を良く見せようと余計な鎧をまといたがる。


しかし、すずかけの幹を見上げるたびに思うのだ。


——余計なものを潔く脱ぎ捨てた、あの剥き出しの姿こそが、


一番面白い模様を描いている、と。

 
 
 

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