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将来の夢

更新日:2023年6月23日

私の実家はお寺で、父はお坊さんです。今回の「禅僧小噺」はそんな背景を持つ私が、一人の少年との会話の中で感じたことについてです。

 少し前のことになりますが、知り合いのお寺に立ち寄る機会がありました。そのお寺の住職さんには小学3年生の息子がいて、とても元気でいつも明るい少年です。その日も私に元気に挨拶をしてくれて、少しの間2人で話していました。ですが、それまで元気に話してくれていた少年が、ふと暗い顔をした瞬間がありました。私が「将来の夢」について、少年に尋ねたときのことです。

 小学生くらいの子どもたちは将来の夢を聞かれると、様々な職業や夢を楽しそうに話してくれることが多いように感じます。しかし、お寺に生まれた私は子どもの頃に、将来の夢を聞かれることが嫌だなぁと思っていた時期があります。なぜなら「お寺の子どもはお寺を継ぐのが当然だ」と周囲の大人に強いられているように感じていたからです。この少年もかつての私と同じような悩みを抱えていました。



 「僕は大きくなったら大工さんになりたいのに、周りの人はお坊さんになるんだねって言ってくる」と不満げな表情を浮かべて少年は話します。この少年には、将来は大工さんになるという夢があるのです。一方で男の子の周囲の大人は(無意識なのかもしれませんが)将来はお坊さんになるんだねと圧力をかけてしまっている。これがお寺に生まれた子どもを取り巻く現実なのかもしれません。

 私の父は以前から、私に対して「お坊さんにならなくていい、好きなことをやりなさい」と常々言っていました。そのためか、私も周囲の人達から「お寺を継ぐんだね」と言われても、「継ぐかは分からないよ」とはっきり答えていたような気がします。


 結果として、私は子どもの頃からお線香の香りに魅力を感じていたことも影響してか、お寺という空間が好きで実家を継ぎたいと思ったので、現在もお坊さんとして日々研鑽を積んでいます。そんな私は少年にこう言いました。「大工さんになりたいなら、そのために迷わず一生懸命に進めばいいよ。もしお寺のことが好きだと思ったら、そのときにまた考えればいいんじゃないかな」私の言葉を聞くと少年は、少し驚いた顔をしました。きっとお坊さんにならなくてもいいという選択肢をくれる人が、周りには本当に少なかったのでしょう。また、少年はお坊さんやお寺のことが嫌いなわけではないとも話してくれました。それならばと思い「大工さんをやりながら、一緒にお坊さんもできる。そんな選択肢もあるんだよ」と声をかけました。「じゃあそれでいいじゃん!」と大きな声で言う少年の表情は、さっきの暗い顔を忘れさせるほどの素敵な笑顔でした。


 その少年の将来がどうなるのか、今の私には分かりません。しかし、子どもが将来の夢を語るときは、明るい表情をしていてほしいというのが私の想いです。お寺の子どもとして生まれたからといって、未来の選択肢を狭めるようなことはしたくありません。また同時に「お坊さんという生き方も素敵だなぁ」と、子どもたちに思ってもらえるようなお坊さんになりたいと考えた出来事でした。


吉長 洸大




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