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茜色の送り火



7月13日から15日

東京都内ではお盆を迎えた地域もありました。

正式には「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と言います。

私が生まれ育ったお寺のある地域は

8月にお盆を迎えます。

 

毎年お盆には「棚経(たなぎょう)」といって、

お檀家さんのお宅を一軒ずつ回り

戻ってこられたご先祖さまに対して

お経をお唱えします。

 

昨年のお盆のことです。

その年の棚経も最終日。

西の空がやわらかな茜色に染まり

風が少し涼しくなりはじめた頃。

家々からは細い煙が立ちのぼってきました。

送り火です。

帰ってきたご先祖さまをお見送りする火。

 

その日最後に訪ねたのは

亡くなってから初めてお盆をお迎えする、

「新盆」のお宅でした。

玄関先では

中学生のお姉ちゃんと

小学生の弟が束ねた藁に火を灯すところ。

パチパチと音を立てて

炎が一気に燃え広がります。

ふたりは「わっ」と声をあげて

少し、はしゃいでいるように見えました。 

 

 


 

けれどその笑顔を見たとき

私は胸がきゅっと締めつけられました。

 

 

 

 

その送り火は

ふたりのお母さまを

見送る火でもあったからです。

 

 

 

お母さまは

私が少年合唱団の講師をしていた時に

よく姉弟の送迎にいらしていました。

真っ赤な車の窓を開けて

「風雅先生~!」と声をかけてくださる。

髪の毛を後ろに結い

黒縁メガネがトレードマークの

どんな時も朗らかで、あたたかい方でした。

 

突然の訃報が届いたのは、お盆の2か月前。

あまりにも早い別れでした。

私は遺された姉弟のことが

ずっと心に引っかかっていました。

 

 

送り火を見届けてから

3人で家に入り、お仏壇の前へ。

そこには

あの笑顔のままの写真が飾られていました。

 

私は静かにお経を唱えました。

終えると、胸の奥に溜まっていた感情が

じわっとにじんできて

思わず涙がこぼれました。

 


そのとき

お姉ちゃんがぽつりと言いました。

 

 

「毎晩ね

 お母さんがまた

 起こしに来てくれるかもって

 思いながら眠るの。

 朝になってやっぱりいないってわかると 

 寂しくて泣いちゃうけど……

 でも、ご飯を食べている時も、

 学校に行く時も、合唱の時も、

 いつもお母さんがいる気がするんだよね。

 いないけど、いつでも会えるの。

 だからね先生、私たち、大丈夫だよ。」 

 


一番辛くて寂しくて悲しいのは

姉弟のはずなのに

私の方が励まされました。

ふたりは私が思っていたより

ずっと強かった。

そしてお母さまのふたりへの愛情を

心から感じた瞬間でした。

 

 


 

亡くなった方や

ご先祖さまに思いを馳せる日がお盆です。

目には見えないかもしれないけれど

大切なその方は

きっとあなたのそばにいます。

 

「いつも見守っていてくれてありがとう」

 

お墓参りをしたり

お仏壇の前で手を合わせることで

亡くなった方との思い出を忘れないこと。

そうやってご縁を繋いでいくこと。

それが何よりのご供養になるのです。


風雅


私が生まれ育ったお寺の境内に咲く紫陽花です。お盆の時期にも鮮やかに咲きます。
私が生まれ育ったお寺の境内に咲く紫陽花です。お盆の時期にも鮮やかに咲きます。


 
 
 

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